Ski/Sno
 
図1
<図1>
図2
<図2>

1.Ski/Snoはコリプレッサーである
 ski 遺伝子は20年以上も前にニューヨークのSloan-Kettering Instituteで発がん遺伝子として見い出されました。興味深いことにウズラの胚細胞に ski 遺伝子を導入すると筋細胞に分化し、また ski を過剰発現するトランスジェニックマウスでは骨格筋が異常に発達することが見出されています。通常、細胞分化は細胞増殖の停止を伴うことから、発がん(細胞増殖)とは正反対の性質と考えられています。このようにski は細胞増殖と細胞分化の誘導という異なる2つの性質を持つ、興味ある遺伝子です。ski遺伝子産物(Ski)の機能は長らく不明でしたが、最近の私達の研究により Ski 及びその関連遺伝子産物Snoは転写コリプレッサーN-CoR/SMRTやmSin3と結合し、ヒストンデアセチラーゼ複合体の構成因子であることが明らかになってきました(図1)。Ski/SnoはMad, ステロイドホルモン受容体、Rbなどの多様なリプレッサーによる転写抑制に必須であることが示されました。Ski/Sno が2つの良く知られたがん抑制遺伝子産物 MadやRb による転写抑制に必須であることは、Ski/Snoはがん抑制因子としても機能することを示唆しています。そして、実際にsnoヘテロ変異マウスは長期飼育を行うと、低頻度ながらリンパ腫が発症し、また発がん剤のDMBA を投与すると、野生型マウスではほとんど発がんが見られないのに対し、sno+/-マウスではリンパ腫などが高頻度に生じることが分かってきました(図2)。同様の結果はskiヘテロ変異マウスでも得られており、ski/snoがある種の細胞ではがん抑制因子としても機能することが証明されました。一方、Ski/Snoがコリプレッサーであるとの私達の報告が契機となり、Ski/Snoが直接転写活性化因子Smadsに結合し、HDAC複合体をリクルートすることによって、Smadによる転写活性化を阻害し、TGFb シグナル伝達経路を阻害することが示されました。従って、Ski/SnoはTGFb感受性の細胞ではTGFbシグナル伝達経路を阻害することによって、発がん因子として機能し、一方MadやRbの発現レベルが高い細胞では逆にMadやRbのコリプレッサーとして機能し、がん抑制因子として機能すると考えられます(図1)。現在、SkiやSnoを介した転写制御メカニズム、Ski/Snoの生理機能などを明らかにするため、分子生物学的手法や発生工学的手法を用いて研究を進めています。

 
図3
<図3>
 
図4
<図4>

2.コリプレッサーとNuclear Bodyとの相互作用
 私達はSkiなどのコリプレッサーに結合する因子をスクリーニングする過程で、PML蛋白質がコリプレッサーに結合することを見い出しました。PMLはレチノイン酸受容体RARとの融合遺伝子PML-RARが急性白血病APLを引き起こすことから見い出された因子で、RING finger, B box, coiled-ciolの3つのドメインから成る通称RBCCモチーフを持っています。PMLは核内で点状に局在しており、この構造はNuclear Bodyと呼ばれています(図3)。PML-RAR融合遺伝子によって引き起こされる白血病細胞では、面 白いことに、この点状構造が小さくなります。そしてこのタイプの白血病はレチノイン酸の投与によって寛解しますが、レチノイン酸によってこの微少な構造はもとの大きな構造に戻ります(図3)。私達はSki, N-CoR, mSin3の3つのコリプレッサーが一緒にPMLのCoiled-coil 領域に結合することを見い出しました。また一連の実験から、PMLがコリプレッサーの機能に必須であることが分かりました。Nuclear bodyの構成因子であるPMLはコリプレッサー複合体に結合して、この転写 抑制machineryを核内の特定領域に局在させ、この領域に特定遺伝子がリクルートされることによって、転写 が抑制されると推定されます(図4上)。面 白いことに、がん抑制因子Madによる転写抑制はPML-RAR融合蛋白質によって完全に解除されます。コリプレッサーN-CoRは最初RARなどのステロイドホルモン受容体に結合する因子として見い出され、一方私達はPMLがこれらのCorepressorに結合することを見い出しました。従って融合蛋白質PML-RARは、この複合体に結合するサイトを2つ持っており、この複合体にいびつな形で結合すると考えられます。このようにPML-RAR融合蛋白質は、リプレッサーとして機能するがん抑制因子MadやRb活性の低下させ、白血病を引き起こすのではないかと考えられます(図4中)。また、レチノイン酸を投与するとRARとN-CoRの結合がはずれて、このようないびつな結合が解消されると推定されます(図4下)。以上のように、転写 制御は細胞核内の構造体と密接に関連しています。現在、動物細胞核内の Nuclear body を形成する因子の機能について、分子生物学的手法、マウスの発生工学的手法、ショウジョウバエの遺伝学的手法を用いて、研究を進めています。



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