Schnurri

 1989 年、私達はエイズウイルス (HIV) エンハンサー結合因子のcDNAクローニングを行い、HIV-EP(HIV enhancer-binding protein)と名付けました。同時期にこの因子は米国のグループによってもクローニングされ、MBP-1 , PRDII-BF1 と名付けられました。私達はHIV-EP1 の関連遺伝 子として、HIV-EP2, HIV-EP3を同定し、この遺伝子ファミリーが動物細胞では少なくとも3つのメンバーを含むことを明らかにしま した。 HIV-EP遺伝子産物は約270 kDの大きな蛋白質で、2つのメタルフィンガー構造を含むドメインを2セット持っています(図1)。
<図1>

<図2>

<図3>
このことからHIV-EPはプロモーター上の2つの部位に結合して、転写制御領域の高次構造を変えることによって、 転写をコントロールする可能性が考えられます。1995 年に2つのグループが HIV-EPのメタルフィンガー領域がショウジョウバエの核内因子 Schnurri (Shn)と高いホモロジーを有し、HIV-EPがShnホモログであることを報告しました。そこで現在では名前の混乱を避けるため、私達はHIV-EP-1, 2, 3をShn-1, 2, 3と呼んでいます。
 ショウジョウバエ Shnは TGF-β/BMP/activine のホモログ dpp のシグナル伝達経路の下流で機能します。動物細胞におけるTGF-β/BMP/activine シグナル経路の解明は最近大きく進展し、転写因子Smad が重要な役割を果すことが分かってきました(図2)。 各々の経路に特異的なSmad (R-Smad)は細胞膜上の受容体に結合していますが、リガンド刺激に応じて受容体によってリン酸化され、受容体から遊離し、Smad-4 (C-Smad)とヘテロオリゴマーを形成し、核内に移行します。Smad1/3/4はAGAC配列を認識して、DNA に直接結合すると共に、種々の他の転写因子とも相互作用をして一群の標的遺伝子の転写を制御します。そしてShnはSmadと直接結合します。
 私達はShnの生理機能を明らかにするため、Shn-2の変異マウスを作製しました。Shn-2変異マウスではSP T細胞が顕著に減少しており、DPからSP細胞への分化段階に異常がありました(図3)。 この段階では、自己のMHCに拘束されたT細胞受容体を発現するT細胞のみが成熟するいわゆるPositive selectionと共に、自己を攻撃する可能性のあるT細胞を除去する Negative selection が起きます。一連の解析から、Shn-2変異マウスではPositive selectionが異常であることが分かりました。この結果は、T細胞の分化にTGF-β/BMP/activineシグナルが関与することを示唆していますが、メカニズムの解明のためには、更に詳細な解析が必要です。現在、Shnの機能について種々の方向から研究を進めています。



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