'16.04.11 updated

Ski/Sno
 
 


 私たちの体の細胞は、原則的に、いったん分化してしまうと元には戻りません。しかし、分化した体細胞の核を、卵子の細胞質に移植すると、受精卵の状態に戻り、クローン動物を作ることができます。また、体細胞とES細胞を融合したり、ES細胞で大量に発現している転写因子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycなど)を体細胞へ導入すると、ES細胞と同様に多能性を持つ細胞が誘導されます。私達は、これらの現象がどのようなメカニズムで起きるのか、核の初期化・リプログラミング機構を研究しています。

1. 卵子中のリプログラミング因子
 体細胞核移植によるリプログラミングは、体細胞の核を卵子の細胞質に移植することによって引き起こされます。このことから、卵子中にリプログラミング因子があると考えられています。しかし、iPS細胞作製に用いられるリプログラミング因子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc; OSKM)の蛋白質の発現は、卵子中で非常に低いため、卵子中では他の因子・メカニズムによってリプログラミングが引き起こされると考えられます。
私達は、卵子中に大量に蓄積されているヒストンバリアントのTH2A/TH2BとヒストンシャペロンのNpm2が、OSKMによる体細胞核のリプログラミングを促進し、iPS細胞の作製効率を上昇させることを見いだしました。TH2A/TH2BはヒストンH3/H4と共に八量体を構成し、DNAを巻き付けてヌクレオソームを形成します。驚いたことに、TH2A/TH2Bは、リプログラミングの過程で、X染色体に優先的に結合していました。X染色体の不活化に関わるXistを欠損した線維芽細胞を用いると、TH2A/TH2B/Npm2/OSKMによるリプログラミング効率はさらに高くなりましたが、OSKMのみでは影響が見られませんでした。この結果は、核移植によるクローンマウス作製効率が、Xist欠損体細胞核を用いると改善されるという報告と良く一致します。私達はTH2A/TH2Bによって、核移植に似たリプログラミングが誘導されるのではないかと考えています (Cell Stem Cell, 2014)。

ヒトへの応用にも取り組んでおり、トランスクリプトーム解析から、OSKMにTH2A/TH2BとP-NPMを加えて作製されたヒトiPS細胞が、「ナイーブ型」幹細胞に特徴的な遺伝子群を高発現していることを明らかにしました。ヒトiPS細胞の品質改善にTH2A/TH2Bが役立つのではないかと期待されます (Stem Cell Dev., 2016)。

2. ヒストンバリアントTH2A/TH2Bの生理機能
 TH2A/TH2Bは精巣特異的なヒストンバリアントとして発見されましたが、その機能は長い間不明のままでした。TH2AとTH2Bは隣接遺伝子で、その間はたった0.3 kbしか離れていません。私達は、TH2AとTH2Bの両方の遺伝子を一度にノックアウトしたマウスを作製しました。そして、TH2A/TH2Bの両方を欠損したマウスのオスは不妊で、精子形成の過程で、コヒーシンの解離がうまくいかないために第二減数分裂の手前で減数分裂の進行が遅れること、また、減数分裂後の精子細胞ではヒストンからTNP、プロタミンへの置換に異常が生じ、核が変形、死滅することを明らかにしました (Development, 2015)。TH2A/TH2Bを欠損した卵子の形成は一見正常ですが、受精後、精子核の活性化及び二細胞期のzygotic gene activationに異常が見られ、TH2A/TH2Bが精子由来の核のリプログラミングに重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。



Fertilization. Sperm nucleus (blue, DAPI) and chromosomes of oocyte (red,H3K4me3) are shown. Chimeric embryo (morula). ES cells expressing dsRed was aggregated with 8-cell embryo.
Mouse iPS cells generated by Klf4, Oct4, TH2A, TH2B, and p-Npm Chimeric mouse derived from iPS cells (left)
Human iPS cells generated by KLF4, OCT4, SOX2, and MYC
Teratoma derived from OSKMBAN human iPS cells

Return