myb がん遺伝子産物 (Myb)はニワトリに白血病を発症させるニワトリ骨髄性白血病ウイルスAMV (Avian Myeloblastosis Virus) や E26 の持つがん遺伝子として同定されました。v-myb がん遺伝子の細胞側相同遺伝子 c-myb は主として造血系細胞で発現しており、その発現レベルは未分化状態の時に高く、分化に伴い低下することが知られています。c-myb欠損マウスはfetal liverでの造血不全のため、12-13日目の胎仔の段階で致死となり、c-mybが未分化造血系細胞の増殖に必須であることが分かります(図1左)。私達の研究室ではMybに関して現在以下のような研究を進めています。
図1
<図1>

1.Mybの立体構造の解析
  私達のこれまでの研究により、Myb はAACNG というDNA配列に結合する転写 活性化因子であることが分かっています。DNA 結合ドメインは約 50 アミノ酸を1つの単位とする3つのリピート構造から成ること、各リピートはヘリックス・ターン・ヘリックス (HTH) 様の構造を有し、リピート3が AAC 配列を、リピート2が5番目の G を認識することなどが明らかにされ、Mybによる特異DNA配列認識機構が明らかにされています(図1右)。MybはC/EBPβ, AML1, GATA, Ets などの転写因子と一緒に造血系特異的遺伝子の転写を活性化します。これらの複数の因子はプロモーター上で相互作用して、いわゆるEnhanceosome を形成します(図2)。しかしこれらの転写因子間の相互作用の実体については全く分かっていないのが現状です。私達はプロモーター上に結合したc-MybとC/EBPβが直接結合することを原子レベルで明らかにし、その際DNA ループが形成されるこを明らかにしました(図3;横浜市立大の緒方教授のグループとの共同研究)。
図2
<図2>
図3
<図3>


2.Myb の活性制御と細胞癌化のメカニズム

 c-Myb はN端側から DNA 結合、転写活性化、活性の負の制御に関与する3つのドメインを持っています(図4)。転写活性化ドメインにはコアクティベーターCBPが結合します。これまでの研究から、c-Myb のNまたはC端側を欠くと活性化され、細胞がん化能を獲得することが分かっています。これらの領域に結合する制御因子の解析がMyb活性の制御メカニズムを明らかにするために重要であり、現在いくつかの結合因子について研究を進めています。

図4
<図4>
図5
<図5>

3.Myb による HSF3 の活性化
 私達はc-Myb がheat shock factor 3(HSF3)に結合して、HSF3を活性化し、シャペロニンをコードする hsp70 遺伝子などの転写を誘導することを明らかにしました(図5。HSF は熱ショックによって発現が誘導されるシャペロニン遺伝子の転写制御配列 HSE(heat shock element)に結合する転写因子で、動物細胞ではこれまでに 多様な HSF が見出されており、それぞれが異なるストレスに対応して活性化されることが推定されています。興味あることに、c-Myb は複数種の HSF のうち HSF3 にのみ特異的に結合し、活性化します。c-Myb の細胞内での存在量は細胞周期に依存し、G1/S 移行期に上昇します。また蛋白質の折り畳みをコントロールするシャペロニンの発現も同様の細胞周期依存性があることが古くから知られていましたが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。Myb - HSF3 相互作用はシャペロニンの発現と細胞増殖の制御の関連に重要な役割を果たしている可能性があり、現在その作用メカニズムを解析しつつあります。さらに最近有名ながん抑制因子p53がHSF3に結合し、c-MybとHSF3との相互作用を阻害し、HSF3の活性化を抑制することが分かりました(図5)。p53は細胞周期を停止させることが知られていますが、c-MybによるHSF3の活性化を阻害し、シャペロニンの発現を抑制することが、p53による細胞周期抑制に寄与していると考えています。

4.B-myb の生理機能
 脊椎動物の myb 遺伝子ファミリーは c-myb, A-myb, B-myb の3つのメンバーから成っています。c-myb は主として造血系に、A-myb は精巣細胞に、そしてB-myb はほとんどの細胞に広く発現しています。B-myb 欠損マウスは発生の早期に致死となり、B-myb が発生初期段階でICM(Inner Cell Mass)の形成に必須であることが分かっています(図6。B-myb の生理機能を明らかにするために、現在組織特異的 KO マウスの作製・解析を進めつつあります。

図6
<図6>
5.ショウジョウバエ myb(dmyb)の遺伝学的研究
dmybはeye discにおいて、morphogenetic furrow (MF) の前後に stripe 状に発現します(図7左)。dMybのC末端が欠けた活性化型dMybΔCをeye discのposterior regionで発現させると、眼の形態が異常となる rough eye phenotype が観察されます(図7右)。私達は、これがCyclin Bの発現が上昇するためであることを明らかにしました。現在、rough eye phenotype が変化する種々の変異体をスクリーニングすることによって、Myb制御因子の解析が行われつつあります。
図7
<図7>


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