CBP


 最近、発生・分化などの生命現象において、DNA に直接結合する転写 制御因子と仲介因子と呼ばれる一群の因子との相互作用が予想以上に重要な役割を果 たしていることが分かり始めています。コアクティベーターやコリプレッサーなどの仲介因子は プロモーター上流のエンハンサーやサイレンサーに結合する転写制御因子と TBP などの基本転写因子との間のブリッジ役の分子として同定されてきました(図1)。
図1
<図1>

 CBP は最初転写活性化因子 CREB に結合するコアクティベーターとして同定されました。そして、核内ホルモン受容体や Myb の場合にも CBP がコアクティベーターとして機能しているとのデーターが契機となり、CBP は多くの転写活性化因子の共通のコアクティベーターとして機能することが明かとなってきました。最近の研究により、CBP 分子自身がヒストンをアセチル化する酵素(HAT: histone acetylatransferase)活性を有すること、CBP は HAT 活性を持つ種々の分子と複合体を形成して機能することが分かってきています。核内では DNA はヒストンに巻き付いて、いわゆるヌクレオソーム構造を形成していて、ヒストンがアセチル化されるとこのヌクレオソーム構造が緩まり転写 が活性化され、逆にアセチル基が取り除かれるとヌクレオソーム構造が固くなり、転写 が抑制されます。従って、CBP はヒストンをアセチル化し、ヌクレオソーム構造を弛緩させることによって、プロモーター領域にに転写 活性化因子がアクセスし易くして、遺伝子発現を制御すると考えられつつあります。

 

図2
<図2>
1.Rubinstein-Taybi 症候群
 Rubinstein-Taybi 症候群を研究していたオランダのグループが、ヒト CBP 遺伝子がこの疾患の原因遺伝子であることを明らかにしました。この疾患はいわゆる「autosomal dominant(常染色体優性:常染色体上の遺伝子の1コピーの変異で発症するの意)」で、頭蓋・顔面 奇形、太い手足の親指、大泉門開大、頚部彎曲などの形態異常や精神分裂病などを伴い、125,000 人に1 人の割合で見い出されます。Rubinstein-Taybi 症候群の原因遺伝子がCBP 遺伝子であることは示されましたが、本当に2コピーの CBP 遺伝子のうち1コピーに変異が生じると形態異常が生じるかどうかを調べるため、私達はジーンターゲッテイング法により、CBP 変異マウスを作製しました。CBP ヘテロ変異マウスは頭蓋骨形成の遅れ、肋骨形成の異常、椎骨形成の異常など、種々の骨形成の異常が観察されました(図2A)。これらの表現型はRubinstein-Taybi 症候群で観察される頭蓋・顔面奇形、大泉門開大、頚部彎曲などに相当すると思われます。また、CBP ヘテロ変異マウスではBmp-7の発現が低下していることが分かりました(図2B)。

<図3>
2.ショウジョウバエ変異体を用いた解析
 私達はショウジョウバエCBP (dCBP)変異体を分離することができましたので、これを用いてCBP の形態形成における役割の解析を行いました。dCBP 変異体は胚がねじれていたことから、 nejire (nej) と名付けました。dCBP 変異体では各体節の極性決定に重要な遺伝子 engrailed(en)及び wingless (wg)の発現が顕著に低下していることが分かりました(図3A。これらの遺伝子は形態形成に重要な hedgehog(hh) シグナル伝達系において機能しています(図3B)。まず後側の細胞から、Hh 蛋白質が分泌され、前側細胞の受容体 Ptc 及び膜蛋白質 Smo を介してシグナルが転写 因子 Cubitus interruptus (Ci) に伝わります。そして活性化された Ciが wg 及び decapentaplegic(dpp) の転写を誘導します。Wg は動物細胞の Wnt 、またDpp は Bmp のホモログであり、 分泌されたWg は後側細胞に結合し、転写因子 En を介して hh の転写を活性化します。野生型では、このように各体節の前側で wg が、また後側では en が発現されますが、dCBP変異体ではこれらの遺伝子の発現が顕著に低下しており、hh シグナル伝達経路が機能していないことが分かりました。分子レベルでの解析によって、 dCBP は Ci に結合し、Ci の転写活性化能に必須のコアクティベーターであることが示されました。従って、dCBP変異体ではCi による転写活性化が起きず、 en 及び wg の発現が顕著に低下することが分かりました。
 以上のように dCBP 変異体の解析から、ショウジョウバエにおいては CBP は転写 因子 Dl のコアクティベーターとして twi の発現誘導、背腹の極性決定に重要な役割を果 たすと共に、転写因子 Ci のコアクティベーターとして dpp の発現誘導、各体節の前後軸の決定にも関与しているこが明らかにされました。
 現在、分子生物学的手法、ショウジョウバエの遺伝学的手法を用いて、CBPを切り口として、クロマチン構造と転写 制御の関連を解析しつつあります。



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