前の記事 | 目次 | 次の記事
(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

モデルマウス:どこから来たか?
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

   

医学の研究はヒトの病気の正しい診断や効果のある治療を行うために大切ですが、いうまでもなく、ヒト自身を研究材料とすることはできません。

近代的な医学研究は1900年代に始まりましたが、ヒトが愛玩用に飼っていたマウス、ラット等が、同じ哺乳動物であるという理由で医学研究におけるヒトのモデルとなりました。メンデルの法則の再発見に始まるこの世紀には、ヒトを含む「生き物」の仕組みに「遺伝」が関係していることが明らかになりました。遺伝的に純化したマウスの系統を育てて、研究者に提供しようという事業が米国のジャクソン研究所で始まったのも、この世紀です。

モデルマウスの免疫学への貢献

20世紀の前半は、「感染」がヒトの健康にとって大きな脅威であり、感染を防ぐ免疫の仕組みの研究が盛んに行われましたが、マウスは基本的にはヒトと似た免疫の仕組みを持つことがわかり、モデルとして大変役に立ちました。

病気の遺伝子を捉える

20世紀後半、抗生物質の発達によって感染症が少なくなりヒトの寿命が延びましたが、代わりに、がん、糖尿病、高血圧症等の生活習慣病が健康を脅かすようになりました。一方、この時代になると、遺伝子をDNA分子として実験的に扱う技術や、生まれる前のマウスに目的とする遺伝子のDNA分子を注入し、生まれた個体でその働きを調べる技術が目覚しい進歩を遂げました。ヒトの正常な生命やその異常としての病気が起こる仕組みを、モデルマウスから知ることができるようになったわけです。

モデルマウスはどこから?

このようにヒトの役に立つようになったマウスはどこから来たのでしょうか? アジア・ヨーロッパ大陸の野生マウスには、遺伝子から見ると約100万年前に分かれた東洋系と西洋系とがありますが(図)、東洋でも西洋でも数百年前、野生マウスから愛玩用マウスが育成されたようです。わが国でも江戸時代に愛玩用ネズミの育て方に関する本が出版されています。


 現在モデルとして使われている実験用マウスは、100年ほど前に西洋系の愛玩用マウスを主な母体として作られましたその遺伝子は90%が西洋系、10%が東洋系になっています(図参照)。我々は日本独自のマウスで日本独自の研究を進めるために、100%東洋系の遺伝子をもつ新しい実験用マウスを育てています。

(特別顧問 森脇和郎)

 

 

前の記事 | 目次 | 次の記事
Copyright (c) RIKEN (The Institute of Physical and Chemical Research), Japan. All rights reserved.