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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

変異マウス開発3:発がんに形作りの遺伝子が関わる!?
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

私たちの体は約60兆の細胞からできています。たった一つの受精卵が何回も細胞分裂を繰り返し、単なる細胞の集まりではなくヒトの形となって生まれてきます。これを発生といいます。ヒトがヒトの形になるためにはどのようなプログラムが働くのでしょうか?

例えば、ほとんどのほ乳類は、生まれた時に親指から小指まで5本の指があります。なぜ親指と小指の位置が入れ替わったりしないのでしょうか?その仕組みが、指の数がふえてしまう「多指症」になる突然変異マウスの研究から明らかになってきました。Shhというタンパク質(*1)が、発生の初期に、将来の小指になる所で作られ親指のほうに向かって薄まっていきます(図参照)。そして、Shhタンパク質が最も濃いところに小指が、濃度が低くなるにつれ他の4本の指が作られます。図の多指症のマウスは突然変異によって、将来親指になる所でもShhタンパク質が高濃度だったため、そこに小指や薬指ができたのです。

Shhタンパク質が体の中で伝わり制御する流れを「Shhシグナル伝達系」といいます。この伝達系は、指だけでなくいろいろな臓器の形作りに重要な働きをしています。また、形作りが終わった大人の体でも、皮膚や毛の細胞において大事な働きをしていることも分かってきました。

さらに、Shhシグナル伝達系が乱れるといろいろな問題が生じることもわかってきました。例えば、日焼けが原因のひとつとなっている基底細胞がん(皮膚がんの一種)は、紫外線がこの伝達系に異常を起こした結果と言われていますし、前立腺がんや肺がん、また子供の小脳のがんの一部は、この伝達系の異常が一因と報告されています。

このように、Shhシグナル伝達系は、胎児期には体の形を作り、生後は毛や皮膚の維持に働き、それがひとたび異常になると、さまざまながんの原因にもなりうる、といった具合に、多様な役割を持っています。発生と発がんとの間には、メカニズムの点で多くの共通点があるようです。

このように突然変異マウスの開発は、基礎研究だけでなく、がんの解明にも役に立つバイオリソースになると期待されています。



*1: (注)タンパク質は、遺伝子から作られる。遺伝子に突然変異が生じるとそのタンパク質の機能に変化が生じることがある。


図1)Shhシグナルを伝達するSufu遺伝子の点突然変異によって多指症になったマウス胎児の前足。
    指が7本ある。正常なマウスはヒトと同じ5本指。
図2)手の向きを決めるメカニズムのモデル。小さいつぶがShhタンパク質。
     つぶの濃さによって、親指になったり小指になったりする。
図3)Shhシグナル伝達経路のモデル。Shhタンパク質の濃さによってSufuタンパク質がスイッチとなり、
     小指や親指が作られる。

(新規変異マウス研究開発チーム 牧野 茂)

 

 

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