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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

細胞リソース 1:画期的な「がん細胞株」樹立
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

 

今週から4回にわたって、バイオリソースの一つである研究用の細胞について紹介します。

生物の最小単位は細胞です。私たちの身体は約60〜100兆個の細胞からできていると考えられています。これらの細胞は性質の異なるグループに分けることができます。例えば皮膚の細胞、脳の細胞、心臓の細胞、肝臓の細胞などなどです。実は、皮膚の細胞や脳の細胞は、その中でもっと細かく分類されるのですが、ここでは触れません。

個々の細胞の正常な機能を知るためには、またアトピー性皮膚炎やアルツハイマー病といった病気の研究を行うためには、こうした細胞が研究材料として必要不可欠です。ただ、ヒトの細胞はそれほど簡単には入手できませんので、実験モデル動物(サルやネズミなど)の細胞も基礎研究にたくさん使われています。そして、人類の福祉向上に多大な貢献をしています。しかしながら、病気の原因の最終的な究明や治療薬の開発といった分野では、ヒトの細胞を使った研究が重要となります。

幸いなことに多くの細胞に関して、試験管の中で培養をして増やす技術が開発されています。試験管の中で増やすことができれば、細胞を繰り返して使うことや、より多くの研究に使うことが可能となります。

細胞の培養が始まったのは1907年と言われていますが、その後さまざまな技術の開発によって、細胞培養は飛躍的な発展を遂げています。そんな中で「がん細胞株」の樹立は画期的でした。ヒトの正常な細胞は短期間は培養できますが、せいぜい数カ月です。それ以上は増やすことができません。ところが、がん細胞から半永久的に試験管の中で増え続ける細胞を作ることができる、ということが分かりました。1952年のことでした。その後、さまざまな「がん細胞株」が樹立され、このバイオリソースはがん研究のみならず、多くの生命科学研究に非常に大きな貢献をしてきました。

細胞材料には、細胞そのものの特性を研究すること以外に、もう一つ別な利用法があります。それは、細胞内の遺伝子情報を解析することです。

遺伝子を解析する技術は急速に発展しています。近いうちに、簡単に個々人の全遺伝子情報が解析できる時代が必ず到来します。その際には、これまでに保存されてきた培養細胞も、大変有意義な研究材料となります。次回はその一例を紹介する予定です。

写真) 世界で初めて樹立された「がん細胞株(HeLa細胞)」

(細胞材料開発室 中村幸夫)

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