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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

実験植物 2:酸性土でもよく育つ植物
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

 

前回はシロイヌナズナに研究上のさまざまなメリットがあることをお話しました。今回はこの植物を使った研究の一例を紹介します。

近年、世界各地で農地の酸性化が問題になっています。酸性化すると農作物の生育が悪くなり、収穫量が低下します。畑に石灰の白い粉を散布しているところを見た方もいると思いますが、石灰を散布することで一時的に土を中和することができます。しかし費用がかさむことから、貧しい国々では土の酸性化は大きな問題です。

なぜ土が酸性化すると植物が育たなくなるのかについては、実はよくわかっていません。そこで私たちは酸性環境で生育が悪くなりやすいシロイヌナズナの変異体(ミュータント)を探し出し、なぜ生育が悪くなったのかを調べました。少し専門的になりますが、今回使った変異体についてお話しましょう。

シロイヌナズナに特殊な薬剤をかけると、一定の確率でDNAに変異(変化)がおこります。そしてたまたま大切な遺伝子に変異がおきた場合、その遺伝子の機能が変化したり失われたりするため、もとの植物と少しだけ違った植物になります。このようにしてつくったいろいろな変異体は世界中でさまざまな研究に使われています。

話を私たちの研究に戻しましょう。約2万5000株の変異体を酸性環境で生育させたところ、もとの植物に比べ根が著しく短くなる植物を一つ見つけることができました。酸性が弱いと正常に育つので、この変異体は酸性下で成長するために必要な遺伝子が変化した可能性があります。

そこでこの変異体を調べた結果、他の遺伝子の機能を入れたり切ったりすることのできるスイッチの働きをするたんぱく質(転写制御因子)の遺伝子に異常が発見されました。シロイヌナズナは2500以上の転写制御因子を持ち、2万7000の遺伝子の機能を制御しています。今回発見した変異体では2500のうちのわずかひとつの転写制御因子に異常が生じただけで、酸性下で正常に育つことができなくなりました。つまり、この転写制御因子は植物が酸性の環境に適応するうえでカギの役割をしていると考えられます。

今私たちは、この転写制御因子の役割を詳しく調べています。将来、この転写制御因子の機能を活用して酸性土でもすくすく育つ樹木や作物が開発されるかもしれません。

このように、シロイヌナズナの変異体は研究に役立つ大事なリソースです。当センターではさまざまな変異体のリソースを内外の研究者に配布しており、多くの有用な遺伝子が見つかることが期待されています。

図)シロイヌナズナ変異株の酸高感受性(右下)

(実験植物開発室 井内 聖)

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