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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

研究用のマウスとは 4:遺伝背景を統御する
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

研究に利用されるマウスは、実験の結果や精度の信頼性を高めるために、個体差の少ない遺伝的に均一な状態であることが重要です。

遺伝的な均一性を高めたマウスを近交系と呼ぶのですが、現在では、糖尿病や癌、神経疾患などを特徴とするさまざまな系統が育成されています。これらは、それぞれ特異的な遺伝情報(遺伝背景)をもっており、各近交系の特徴を決める大きな要因になっています。

そのため、いったん別の系統と混ざってしまうと、目的の症状を示さなくなってしまう恐れがあります。さらに、遺伝的な均一性も崩れてしまいますので、実験の精度が落ちてしまいます。

一方、マウスは見た目の違いが小さく、同じ毛色のマウスであれば系統が違っていても区別することは難しく、系統の取り違えや、不慮の交配などにより別の系統が混ざってしまった場合、なかなか気付くことができません。そこで、マウスの維持に際しては、目的の遺伝背景をもっているかどうかを定期的に検査することで、系統の遺伝的品質が保たれているか確認します。

現在、広く利用されている検査法としてはDNA配列を調べる方法があります。マウスのDNAの配列には多型が存在している場所が多く知られています。系統によって配列が異なっている部分を検査することで、そのマウスがどの系統であるのかを判断することができます。もし、別の系統であったり、別の系統と混ざったマウスであれば、異なった配列になりますので簡単に区別することができます。これは、ヒトの親子の血縁鑑定や、犯罪捜査に利用されているDNA鑑定と同じ手法です。

マウスの場合、この遺伝背景の検査法は新しい系統の育成にも利用されています。変異を持った遺伝子の表現型は、しばしば遺伝背景により変わってくることが知られています。そこで、変異遺伝子をもつマウスを異なる遺伝背景の近交系マウスに繰り返して交配(戻し交配と呼びます)することで、別の遺伝背景に置き換えたマウスを育成することがあります。

通常、10〜12回の戻し交配が必要とされ、育成までに3〜5年かかっていたのですが、毎世代ごとにDNA配列を調べ、より目的の遺伝背景に置き換わったマウスを選別することで、短期間(1〜3年)で新しい系統を育成することが可能です。

マウスの遺伝背景を統御することは、貴重なマウス系統の確実な保存や、新しい系統の育成に欠かせません。

【図の説明】
遺伝背景検査。系統ごとのDNAの配列の違いをバンドの違いで確認できる。1と2のマウスは異なる遺伝背景、3のマウスはAとBの交雑であることがわかる。

(実験動物開発室 目加田和之)

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