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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

研究用のマウスとは 1:個体差をなくせる近交系!
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

 今週から4回にわたって、バイオリソースの一つである研究用のマウスを紹介します。

 今日、世界中の研究者がヒトの遺伝子の働きを解明するためにしれつな競争をしています。その先には新薬や病気の治療法の開発があるからです。マウスはヒトのモデル動物として私たちの健康や病気の治療に役立ちます。  マウスが多くの研究で役立つのには、理由があります。小型でよく増えること、ヒトと同じほ乳類で遺伝子がヒトとよく似ていること、そして個体差がほとんどなく、遺伝的にもほとんど同じ純系動物がであることが大きな理由です。

 マウスの体重はおとなで20〜30グラム、人の手のひらにおさまる大きさです。交尾後20日で5〜10匹の子が生れ、子は生後6〜8週でおとなになります。順調にいけば1年に4世代進みます。

 遺伝学の研究では親の特徴が子に伝わるしくみを調べるため、短期間に子だくさんとなるマウスは格好のバイオリソースです。ヒトでは決してできない実験研究も、マウスであれば短期間で可能です。ヒトとマウスの遺伝子は90%以上が共通なため、マウスの研究はヒトにたいへん役立ちます。

 今日の研究用のマウスの起源は1900年初めにさかのぼります。米国の遺伝学者キャッスル博士は欧米育ちのファンシーマウス(ペットのハツカネズミ)に中国や日本の珍しいマウスを交雑して、毛色や眼の色の遺伝の研究を行いました。その過程で、特徴的な毛色や眼の色を持った多数のミュータント系【注】が樹立されました。

 キャッスル博士の弟子であるリトル博士は、これらのマウス系統でがんの研究を行い始めました。特定の系統ががんにかかりやすいことに気づき、がんの遺伝について研究を行い、遺伝的にほとんど同じマウスが必要であると考えて近親交配を繰り返し、近交系(純系)を育成しました。

 マウスは1匹の母親が5〜6匹の子を生みます。同腹の子からオスとメスを選び交配すること(兄妹交配)を20世代以上続けると、親兄弟姉妹どの個体をとっても遺伝的にほとんど同じになります。

 こうして育成された近交系マウスの登場により、実験で大きな問題となる個体差を取り除くことに成功し、同じ実験処置を注意深く与えれば、ほぼ同じ実験結果が得られ、実験の精度が大きく向上しました。

 100年以上の近交系マウスの育成過程で、がんや糖尿病、神経疾患などを特徴とする400種類以上の近交系が樹立され、今日の医療技術の発展や生命現象の解明を支えています。


【注】ミュータント系:遺伝的に変異した系統

( 実験動物開発室 吉木淳)

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