前の記事 | 目次 | 次の記事
(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

リソースとゲノム 4 :ふたごも実はウリ二つじゃなかった!?
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

AAとaaのように、かけ離れた形質を示すエンドウマメの「純系」を用いて、メンデルは歴史に残る大発見をしました。バイオリソースの開発と維持管理を踏まえた生命科学が、ここから始まったといってよいでしょう。しかし、実は「純系」は世の中に存在しないのです。
 DNA配列は正確に複製されます。そのために細胞から細胞へ、親から子へ全く同じゲノムが伝わると紹介しました。しかしDNAには突然変異が生じます。そのために新しい生物種が現われ生命進化が起こります。放射線や化学変異原(註)による突然変異はよく知られていますが、極めてわずかながら自然にも突然変異が生じます。そして、ヒトのゲノムDNA配列は30億文字という膨大な数なので、1回細胞が分裂するたびに平均30文字の違いがゲノムDNA1セットに蓄積されると言われています。

 この自然突然変異によって、純系の親子どうしといえども数十から数百文字はDNA配列が違っています。厳密には、純系は存在しないのです。そこで、メンデルのように近親交配して確立した系統を「ほぼ純系」という意味で「近交系」と呼びます。近交系というバイオリソースを用いれば、誰でも同じ材料で実験を行うことが可能です。とはいえ、毎世代新しい突然変異がごくわずかでも蓄積されますので、その維持と品質管理はたいへんです。

地球上には38億年の進化を経てさまざまな生物種が今、存在します。それぞれの種にも多型が蓄積され、個体ごとの多様な違いも現れます。この多型を利用して品種改良を進めるのが、育種です。 多型がないと同じゲノム配列をもった個体ばかりが生まれ、育種はできません。地球上の多様な生命を理解するためにはさまざまな近交系を確立するだけでなく、雑種的な状態でもなるべく多くの自然界に存在する多型を保存していく努力も、しなければなりません。 こういったバイオリソースの開発整備によって生命の謎を解き明かすメンデルの大発見も可能となり、その発見から新しい知識を活用して育種ばかりでなく、病気の解明や地球自然の保護への発展ができるのです。生物多様性条約の必要性がいま世界的に叫ばれているのも、自然界の遺伝的多型をこれから人類が理解していく必要があるからに他なりません。

註:突然変異を誘発する化学物質。化学兵器として開発されたマスタードガスが化学変異原発見の最初の例と言われる。

分析機器と農薬の標準品(写真)

( 新規変異マウス研究開発チーム 権藤洋一)

前の記事 | 目次 | 次の記事
Copyright (c) RIKEN (The Institute of Physical and Chemical Research), Japan. All rights reserved.