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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

変異マウス開発1:突然変異体って何?
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

 

突然変異体(ミュータント)とはなんでしょうか?

例えば白いヘビは、色素を作る遺伝子に突然変異が起こり、色素が作れなくなった突然変異体です。生物は、たまたま起こった突然変異が生存に有益な時、その形質を持った個体が生き残り、さまざまな進化を遂げてきました。しかし、生物にとって有益な突然変異は極めてまれであり、病気になってしまう有害な突然変異や全く影響を及ぼさない突然変異がほとんどです。

さて、突然変異とはそもそも何でしょう?地球上のすべての生物は、生命の設計図としてゲノムを持っています。ゲノムはDNAの配列からできており、DNAは4種類の塩基(G、A、T、C)があります。この4種類の塩基の配列の組み合わせがタンパク質の設計図(遺伝子)となります。ヒトやマウスのゲノムは約30億の塩基からなり、この一部(1〜2%)に3万種類弱の遺伝子が暗号化されています。突然変異とは、このゲノムのDNA配列に生じた変化を指します。

理研バイオリソースセンターでは1万系統ものENU(*1)変異マウスをバイオリソースのひとつとして公開しています。それぞれのマウスのゲノムにはENUによって誘発された点突然変異(*2)がたくさん生じています。私たちの解析から、1系統のマウスのゲノムには約3000カ所にランダムな点突然変異があることがわかりました。ですから、1万系統全体では1万×3000=3千万となり、約3千万個の点突然変異がゲノムに蓄積されていることになります。

そのため、遺伝子の長さの平均が1000塩基〜2000塩基とすれば、どの遺伝子にも、10〜20の異なった点突然変異が1万系統のどこかに存在していることになります。私たちは、1万系統の中から、特定の遺伝子上に点突然変異を持つ系統を見つけるためのDNA検査法を開発しています。すでにこのシステムは国内外で多くの研究に役立てられています。

例えば、薬の効きめに関わる遺伝子や精神疾患に関わる遺伝子がわかり、すでに論文発表されています(図参照)。このように生物学上の新たな発見だけでなく、病気の解明により私たちの健康に関わる研究推進に貢献できるよう、さまざまなENU変異マウスを提供しています。


*1: ENU:N-エチルN-ニトロソウレア。アルキル化剤の一種で、DNA配列の塩基置換を高頻度に誘発する突然変異原
*2: 点突然変異: DNAの1塩基(G、A、T、C)が別の塩基に置き換わってしまう突然変異のこと

 



図)理研のバイオリソースから確立された疾患モデルマウスの例

339個のアミノ酸で構成されるタンパク質の遺伝子Srrに生じたENU点突然変異。三つのDNAの配列は一つのアミノ酸の暗号になっている。269番目のY(チロシン)というアミノ酸の暗号はTATだがENUにより1文字だけ突然変異しTAAになった結果、Yではなくタンパク質合成の終わりの暗号になった。
そのため、268個のアミノ酸で構成される不完全なSrrタンパク質に変化した。この不完全なSrr遺伝子を持つマウスは統合失調症様の症状を示し、疾患モデルマウスとしてこの病気の研究に役立てられている。E(グルタミン酸)、I(イソロイシン)、K(リジン)、A(アラニン)、T(スレオニン)、Q(グルタミン)はアミノ酸を示す略号。

(新規変異マウス研究開発チーム 福村 龍太郎)

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