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(独)理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター

細胞リソース 3:万能細胞とは
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

 

前々回は「がん細胞株」などの培養細胞の有用性について、前回は遺伝子解析研究の材料としての培養細胞の有用性について紹介しました。今回は、培養細胞から特殊な細胞を作るお話をします。

私たちの身体は約60〜100兆個の細胞からできていることを紹介しました。しかし、一度できた細胞が一生にわたって使われ続けるわけではありません。例えば、お風呂に入って皮ふをこするとアカが出ますが、これは古くなった皮ふ細胞の残がいで、毎日新しい皮ふ細胞が作られています。胃腸のねん膜も、血液も、毎日新しい細胞が作られ、古くなった細胞は除かれています。このように、私たちの身体は、いつも細胞の置きかえが起こっており、新しい細胞を作り出すもとになる細胞を幹(かん)細胞といいます。

たとえば皮ふという組織には、皮ふに固有の幹細胞から機能細胞(分化細胞)が作られます。もし、この幹細胞を培養して増やすことができれば、そこから特殊な機能細胞をたくさん作ることができ大変有用なのですが、人工的に効率よく培養できる幹細胞はとても少ないのが現状です。今後の技術に進歩により、今よりももっと多くの幹細胞が培養できるようになると期待されています。

私たちの身体の中で日々新しい細胞を作り出している幹細胞は、専門用語では体性幹細胞といいますが、すべての体性幹細胞は、元々受精卵という1個の細胞から生まれてきた細胞です。受精卵が数回から数十回増殖(細胞分れつ)した細胞の集団を胚細胞といいますが、この胚細胞のうち試験管の中で半永久的に培養できるようになった細胞を胚性幹細胞(ES細胞)といいます。

ヒトの胚性幹細胞は1998年に樹立されました。そして、胚性幹細胞からはありとあらゆる細胞を試験管の中で作り出すことができるのです。しかし、胚細胞を入手することは簡単ではありませんし、人間になり得る胚細胞を使うということで、倫理的な問題も含んでいます。

2006年、日本の研究者(京都大学山中伸弥教授)が歴史的な大発見をしました。皮ふの細胞の中で4種類のたんぱく質を大量に生産すると、皮ふの細胞が胚性幹細胞のような細胞に変化したのです。この細胞は人工多能性幹細胞(iPS細胞)と名付けました。そして、翌年にはヒトiPS細胞の作製にも成功しました。iPS細胞はとても簡単に作製でき、胚性幹細胞とまったく同じように、ありとあらゆる細胞を試験管の中でiPS細胞から作り出すことができます。そのためiPS細胞は万能細胞とも呼ばれており、将来再生医療の発展により、わたしたちの健康にとても関わりを持つようになることでしょう。

 

写真) ヒトiPS細胞。丸く見えるのがiPS細胞の集団(コロニーという)

(細胞材料開発室 中村幸夫)

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